医療機器開発
局所脳冷却技術
局所脳冷却とは
局所脳冷却とは、脳に直接温度の低い素材を押し当てることで脳の温度を局所的に降下させる方法で、これにより脳組織で起きる異常な状態を改善する治療法です。
頭皮に冷たいものを押し当てても脳は冷えませんので、麻酔下で開頭して脳または硬膜を露出して、冷却装置を設置することで脳を冷却します。
脳の冷却により得られる効果としては、異常脳活動を選択的に抑制することや、脳虚血防止などがあります。
局所脳冷却技術の開発経緯
脳は運動・知覚など神経を介する情報伝達の最上位中枢です。
また、感情・情緒・理性などヒトの精神活動においても重要な役割を果たしています。脳が身体の様々な機能に深く関わっていることは誰もがよく知っていることです。
これまで脳神経解剖学、脳生理学的研究等により、脳のある程度の機能評価や、神経予後の評価は可能となりましたが、依然として脳腫瘍や血腫除去等、治療目的で実施する手術侵襲や外傷等の外的侵襲により脳機能の一部を損ない、永続的なQOL低下をもたらす可能性は厳然と存在します。
またそのような過酷な状況においても、脳神経外科医は患者の術後QOLを保ち、かつ低侵襲で有効な治療法の開発に力を注いでききました。
患者さんにとってよりよい治療を提供するためには、侵襲部位の脳機能の評価を精度よく行うと共に、脳に直接的にアクセスし高い治療効果を引き出すデバイスが必要です。
しかしながら現在本邦にはこのような侵襲部位の精緻な評価・治療を行うためのデバイスが存在せず、臨床のアンメットニーズを解消するものはありませんでした。
このような臨床現場のアンメットメディカルニーズを解消するために、当社代表取締役の鈴木倫保を中心とする研究グループは20年以上にわたり基礎的研究を行ってきました。
ANT5の取り組み
脳を冷却することに脳保護効果があるということは、数十年前より報告されており、臨床の現場においても院外心停止の患者さんや交通事故による頭部外傷の患者さんの脳状態の悪化を食い止めるために脳を冷却することがあります。
これは、全身の体温を下げることで脳の温度を降下させる低体温療法として、すでに医療機器が数社より上市実用化されております。
しかしながら、脳を冷却するために全身を冷却することは身体的負担も大きいため、脳を選択的かつ効率よく冷却する局所脳冷却療法の実用化を目指して、研究・開発を推進しております。
多面的脳活動計測技術
局所脳冷却技術は、脳を冷却するデバイス開発だけでは達成できません。冷却によって脳の状態が治療効果を引き出せているかどうかを確認する必要があります。
そこで、当社ではフレキシルブル基板上に複数のセンサを適切に配置することで、脳波のみでは捉えきえれない病態性脳活動の計測を目指しております。
さらに、この多面的に脳活動を計測するデバイス単体でも、重症の脳卒中や頭部外傷の患者さんに対してベッドサイドの神経活動の24時間連続モニタリングが可能となります。
これによって、画像検査で現れない病態や、症状としては現れない脳病態の悪化を検出することで、患者さんに対して速やかな治療が可能となります。
異常脳波検出技術
当社の脳活動計測技術では、複数の異なるセンシング技術を用いることにより脳活動を計測しますが、得られた信号からいかに病態性の活動を検出するかどうかが重要となってきます。
現在は、異常な脳活動を評価するためには、医療従事者の経験による熟練度に頼っている状況です。
この状況を解決する方法として、大量のデータを機械学習を持って識別器を作ることや、時間周波数解析技術を基盤として特徴量を抽出する方法も有望です。
我々はこのようなソフトコンピューティング技術を局所脳冷却技術や多面的脳活動計測技術に組み込むことで、医療現場における使用性の向上を目指します。